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栄養価が高く、さまざまなアレンジレシピがある「サバの水煮缶」。
ここ飯山市ではとても身近な食材で、家庭の台所には必ずと言っていいほどサバ缶のストックが常備されています。
近年「サバ缶の消費量日本一!?」という切り口で、飯山市がさまざまなメディアで取り上げられることが多くなりましたが、実はそれを実証する公式のデータもなければ、これまで統計を取ったこともないというのが実際のところ……。
「海がない長野県でなぜサバ缶……?」
「サバの味噌煮缶じゃなくて、なぜ水煮缶……?」
と思った人も多いと思いますが、「サバ缶=飯山市」といわれるようになった背景には、雪深い土地ならではの理由と飯山市民の「ただならぬサバ缶への愛」から生まれたムーブメントがあったのです。
今回、市民学芸員・山本伊都子さんにお話をお聞きして、飯山市とサバ缶との関係を紐解いてみました。
飯山市民学芸員 山本 伊都子さん
新潟県妙高市出身、飯山市在住。飯山市ふるさと館に勤務しながら、飯山の自然・歴史・文化などを後世に伝えていく「市民学芸員」として活動中。市民や小中学生を対象とした、ふるさと学習の講座等で講師や指導役として活躍されています。
山本さん「知人の80代のおばあちゃんに聞いてみたけど、中学時代に『たけのこ狩り』が行事であって、収穫後にはサバ缶を入れた『たけのこ汁』をみんなで作って食べた記憶があるんだって。」
北信濃地域と新潟県上越地域で食べられている郷土料理「たけのこ汁」は、雪国でもっとも人気が高い山菜の代表格「ネマガリダケ」が入った味噌汁のこと。
ネマガリダケとは、日本海多雪地帯に分布するチシマザサのタケノコのことで、雪の重みで根が曲がっていることから、ネマガリダケと名付けられました。ほのかな甘みと歯切れの良い食感、そしてアクが少ないのが特徴です。
このたけのこ汁に、なくてはならないのが「サバ缶」。あっさりとした味噌汁にサバが加わることでコクと旨味が増します。ネマガリダケとサバ缶以外には、にんじんやたまねぎ、豆腐などを入れ、具沢山なものが多く、各家庭でさまざまなバリエーションがあります。
北信濃エリアの直売所やスーパーなどでは、ネマガリダケが店頭に出はじめると隣にたくさんのサバ缶が陳列されるほど定番ともいえる2品。サバ缶が入った「たけのこ汁」は、雪解け後の春に欠かせない郷土料理として今日も食べ継がれているのです。
山本さん「愛宕町に住む長老(96歳)のおじいちゃんは、昭和35年頃、当時あった商店『ツチヤ』へ サバ缶を買いにおつかいをした記憶があると言っていましたよ!」
昭和35(1960)年頃といえば、高度経済成長期の真っ只中。食文化が大きく変わりはじめ、手軽に買えるサバ缶が出回り出したのも昭和30年代頃といわれています。
当時の飯山市といえば、豪雪の冬の間は食料を確保するのも難しかった時代。現代よりも積雪が多く、今ほど除雪道具や機械が発達していなかったため、移動や物流は限られていたことでしょう。
そこで新潟県から峠を越えて入ってくる魚は、保存が効くように塩漬けや缶詰など、さまざまな工夫がされていました。特にサバ缶は、冬の間に保存が効くだけでなく、安価に手に入る貴重なタンパク源として重宝されていたようです。
山本さん「残念ながら、飯山で食べられてきたサバ缶がいつ・どこから入ってきたかが明確に分かる資料は残っていないの。でも、昔の商店の帳簿が残っていたら何かヒントが見つかるかもしれないよね!」
ふるさと館に貯蔵された膨大な資料の中にも特に記載が残っていなかったサバ缶。わざわざ記録に残さないほど身近にあり、多くの市民が食べ親しんでいたものだったのではないでしょうか。
近年、サバ缶が話題に上がる背景には、火付け役ともいえる「飯山サバ缶プロジェクト」の存在がありました。
合同会社GOOD MOUNTAIN 代表 岸田 哲也さん
飯山市出身。サバ缶をこよなく愛す地元有志メンバーとともに「飯山サバ缶プロジェクト」として、合同会社GOOD MOUNTAINを立ち上げ、サバ缶を使った料理が楽しめる「飯山駅ナカ酒場 えっぺ」をオープン。本業は自動車ディーラー。
岸田さん「新幹線で飯山駅に降り立ち、『なにか地元のものを食べたい!』と思ったお客さんに向けて、サバ缶の入ったたけのこ汁を提供したいと思ったことがすべての始まりなんです」
飯山サバ缶プロジェクトは、2020年6月に飯山駅1階にオープンさせた「飯山駅ナカ酒場 えっぺ」の構想がきっかけで始まりました。当時、新幹線開業時からあったそば処が閉店してしまい、空いたテナントを使って “飯山でワクワクする挑戦をしよう” と地元有志のメンバー5名が集まったのです。
そんな想いから誕生したえっぺでは、サバ缶を使ったメニューを展開。元々はカウンターのみのそば屋だったこともあり、駅としての需要を考慮した結果、列車の待ち時間にもササッとお腹を満たせるよう「うどん」が看板メニューになっているのもポイントです。
そのほか「サバ缶オニオン」や「サバ揚げ餃子」など、お酒のお供にもピッタリな一品メニューも揃います。
オープン後も、サバ缶愛が止まらなかったメンバーたちは「自分たちでサバ缶を作っちゃおう!」と「飯山限定コラボパッケージサバ缶」をリリース。宮城県石巻市の水産加工メーカー・木の屋石巻水産に協力してもらいながら、雪国×さばをモチーフにした飯山オリジナルサバ缶ができあがりました。
岸田さん「オリジナルサバ缶はお土産用に考案して、これまでに1万個くらい売れているけど、実は購入者の6・7割は地元の人だったのが意外だった! 飯山の人たちはサバ缶が好きなんだな〜と実感したね」
昭和43(1963)年生まれの岸田さんも若い頃「おかずがなくて困ったときによく食べていた」というように、今の50〜60代の人たちが特にサバ缶好きが多いよう。安く手に入り、おかずにもおつまみにもなり、健康にもいいなんて、その世代の人々にとっては理想的な食材なのかもしれません。
岸田さん「いつかサバ缶イベント『サバカーニバル』をやりたい! サバにちなんで、ガールズバンドのサバシスターや、さかなクンもゲストに呼べたら最高だね(笑)」
「サバ缶のまち・飯山という文化を根付かせたい」という熱い想いを聞かせてくれた岸田さん。今も止まらぬサバ缶愛に、次はどんな仕掛けを起こすのか、今後のプロジェクトにも注目です。
「海はなくともサバへの想いは深く広い」
飯山サバ缶プロジェクトが掲げているキャッチコピーの通り、「サバ缶の消費量日本一!?」とまでいわせた、飯山市民のサバ缶愛は伝わりましたでしょうか。
雪深い飯山ならではのストーリーを知った上で食べるサバ缶は、また一味違うかも?
飯山にお越しの際にはぜひ「サバ缶」を使ったオリジナルメニューや、たけのこ汁をお楽しみくださいね。
※2024年12月時点※
サバが不漁のためサバ缶を製造することができず、店舗在庫が終わり次第、しばらくオリジナルサバ缶の販売はお休みとなります。店舗でのおつまみとしては醤油煮缶のみ、まだ少し在庫がありますのでサバ缶と美味しいお酒をぜひお楽しみください。
◎飯山駅ナカ酒場 えっぺ
〒389-2253 長野県飯山市飯山770-3
電話番号 | 0269-69-7101 |
営業時間 | 11:30-14:00、16:30-20:00/土日祝 11:30-20:00(L.O.19:30) |
定休日 | 火、水曜日(冬季は不定休) |
ネマガリタケが採れる4月から6月の期間中、記事の中でご紹介した『たけのこ汁』を市内の飲食店で楽しむことができます。提供期間はお店によって異なるため、お出かけ前にお問い合わせいただくことをおすすめします。
◎六兵衛
〒389-2254 長野県飯山市南町32−5
電話番号 | 0269-62-4359 |
営業時間 | 11:30-14:00/17:00-21:30 |
定休日 | 不定休(要問合せ) |
◎いいやまぶなの駅
〒389-2255 長野県飯山市静間1487
電話番号 | 0269-81-2831 |
営業時間 | 10:00-15:00 |
定休日 | 不定休 |
◎そば処 幸輪
〒389-2253 長野県飯山市大字飯山1200
電話番号 | 0269-63-2978 |
営業時間 | 11:00-21:00 |
定休日 | 水曜日 |
◎café里わ(道の駅「花の駅 千曲川」)
〒389-2414 長野県飯山市大字常盤7425
電話番号 | 0269-62-1887 |
営業時間 | 平日 8:30-17:00 (LO 16:30) /土日祝 7:30-17:00 (LO 16:30) |
定休日 | 月2回第2木曜日・第4木曜日(1月~3月は毎週木曜定休) |
※店舗情報は2024年12月時点のものです。
執筆:くわはらえりこ
トップ写真:太田 孝則
公開日:2024年12月9日