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長野県と新潟県の県境に連なる全長110㎞のロングトレイル「信越トレイル」。
関田(せきだ)山脈の豊かなブナ林が広がる「山エリア」と、苗場山麓の集落を結ぶ「里エリア」にわたる、豊かな自然と歴史文化を感じられる国内でも稀な本格的ロングディスタンスハイキングコースです。
コースの構成は、斑尾山頂から、苗場山頂までの全10セクション。
テント泊でスルーハイクする本格的なロングトレッキングから、好きなセクションだけを歩く日帰りトレッキングまで、自分のレベルやペース、楽しみ方に合わせて歩くことができます。
ロングトレイルと聞くと、なかなかハードルが高い……と思う人もいるのではないでしょうか。
「いつかは歩いてみたい!」という気持ちがあっても、不安があったり、なかなか踏み出せなかったり。そんな、信越トレイルデビューをしてみたい人におすすめしたいのが、「整備ボランティア」への参加です。
実は、信越トレイルはボランティアの皆さんの協力の元、整備・維持されているのをご存知ですか?
維持管理の全体統括を担う『NPO法人信越トレイルクラブ』が中心となり、毎年6〜10月までの5ヶ月間、WEBサイト上でボランティアを募集しながら毎週のようにトレイル整備を実施。長野と新潟を中心に全国各地から年間で延べ約600名がボランティアとして参加しています。
「実際どんな作業をするの?」「力仕事ばかり?」「女性の参加者はいる?」などなど、初めて参加する際には気になることばかりだと思います。
ということで、実際にどんな風に整備が行われているのか、ここからは体験レポートをお届けします!
8:00 なべくら高原・森の家に集合
信越トレイルクラブの事務局がある「なべくら高原・森の家」に集合し、受付を済ませます。
参加者全員が揃ったら、まずは自己紹介です。
この日の整備リーダーは、新潟県十日町市に住む田村良一さん。一般参加者には、近隣市町村からリピーターの方や、初参加ではるばる横浜からお越しの方もいました。
一通り自己紹介が終わると、信越トレイルクラブ事務局の鈴木栄治さんより、信越トレイルのガイドラインと整備活動の考え方ついてお話がありました。
信越トレイルのコンセプトは「爪でひっかいた木こり道のようなトレイル」。
くぐれるような木はできるだけ切らずに、人がひとりが通れる程度の最低限の整備を行います。目指すのは自然に大きな負荷を与えない、ハンドメイドな道づくり。
さらに、本日の整備場所の発表があり、作業内容やスケジュールなどの説明が行われました。
当日の整備内容は事前に決まっている場合もありますが、天候・人数・属性によって変わることもあるそうなので、どこのセクションになるかは当日のお楽しみです。
8:30 整備場所に向かって出発
整備に必要な道具を積み込んだワゴン車に乗って、いざ出発!
車内で、横浜からお越しの女性の方に話しかけてみると、以前から信越トレイルを歩いてみたかったとのこと。「公式WEBサイトを見ていたら、整備ボランティアがあることを知り、まずは整備で様子を見てみようかなって昨日今日と参加してみたんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。女性ひとりでも気軽に参加されているご様子!
そして、出発から30分ほどで整備場所に到着です。
今回は、セクション3にあたる桂池〜黒岩山エリア。
桂池から美しいブナ林を抜け、黒岩山の山頂付近にある東屋までの1.7kmを整備していきます。
9:00 トレイル整備開始
車から降りたら、「ヘルメット」「ノコギリ」「枝切バサミ」「熊手」が配られ、整備リーダーの田村さんから整備方法・安全管理について説明がありました。
この日は、男性3名が機械を使った草刈隊として前を歩き、後から女性3名でトレイル上にせり出した枝を枝切バサミで切ったり、刈った草を熊手で掃いたりすることに。
安全面を考慮して、チェーンソーや草刈機等の機械は経験者や資格保有者が主に使用しますが、それ以外の参加者にはノコギリや草刈り鎌等を使用した作業が分担されます。
一人ひとりの体力や経験に応じて作業するので、草刈機が使えなくても、土木作業の技術がなくても大丈夫。これなら通常のトレッキングが可能な体力がある人であれば誰でも無理なく出来そう!いざ、整備スタートです。
11:30 お昼休憩
予定通り、東屋に到着したので、昼食タイムです。
各自で持参したお昼ごはんを食べながら「いやー、昨日の整備は雨で大変だったよね」という話から始まり、信越トレイルについての雑談に花が咲きました。
主に整備ボランティアに集まるのは、信越トレイルをこよなく愛するハイカーや、トレイルカルチャーに興味がある人、そして地域に対して想いがある地元住民などです。
過去、小学生から80歳まで幅広い年代の人たちが整備に参加しており、信越トレイルを何度も歩いている人もいれば、地域や植生などに詳しい人もいたり、ボランティアをきっかけに初めて信越トレイルに来たという人も多いんだとか。
ただトレイルを整えるだけでなく、運営スタッフや参加者同士が交流しながら情報交換できるのも整備ボランティアの魅力のひとつ。最も多い人はなんと延べ100回以上!参加しているらしいので、リピーターが多い理由もそこにあるのかもしれません。
お昼を食べ終え、東屋から少し南へ下ったあたりの美しいブナ林を見に寄り道しつつ、スタート地点の桂池まで戻ります。復路は、往路よりもきれいになったトレイルを気持ちよく歩くことができました。無事、本日の整備作業終了です!
14:00 「なべくら高原・森の家」へ帰着
ワゴン車に乗って「なべくら高原・森の家」へ戻ってきました。
すぐに解散かと思いきや、参加者全員での休憩タイムが待っていました〜!
みんなでテーブルを囲んで、事務局スタッフに用意していただいた きゅうりの漬物、スイカ、お菓子、ウーロン茶をいただきます!汗をかいたあとの乾いた体にやさしくしみわたる美味しさでした◎
実際に参加してみて、「地域の里山に残る自然を守っていきたい」「ロングトレイルというカルチャーを大切にしていきたい」など、さまざまなバックグランドや想いを持ったボランティアの人たちの協力によって、全長110kmもの信越トレイルは守り続けられていることがよくわかりました。
それにしてもトレイル整備は想像以上に楽しく、整備未経験だった筆者でも(微力ですが)役に立てることがあるんだ!と感激です。信越トレイルクラブのみなさん、参加者のみなさん、大変お世話になりました〜!
「信越トレイルの整備って参加のハードルがとても低いんですよね」と語ってくれた信越トレイルクラブの鈴木さん。
近年、登山道の荒廃が目立ち、全国的に登山道整備に注目が集まっています。ただ、整備に専門的な技術が必要であることや、一般に広く募集していないことから、一個人が「登山道を整備したい」と思ってもなかなか叶わない状況にあります。
その点、信越トレイルは2005年から開通し、ほかの登山道と比べて良い状態が保たれているといえるでしょう。また、現状の作業内容は草刈りや枝払いがメインで、専門的な技術がなくても作業可能な上に、公式WEBサイトで整備日程カレンダーを公開し、広く参加者を募っています。
「まずちょっとやってみようかなって人たちが入口として来てもらえたら」と鈴木さん。
「実際にやってみて、興味を持ったらほかの登山道整備に深く関わってもらうのもいいですし、信越トレイルをもっと歩いてみたいと思ってもらえたら最高ですよね」
この先、信越トレイルクラブは、信越県境をすべてつなげて歩くことができる、そんなトレイルができることを夢に描いています。
「ロングトレイルは長ければ長いほどいいんですよ」という鈴木さんの言葉通り、地域をまたげばまたぐほど、その土地ならではの風土を体感することができるでしょう。
そのためにも長距離にわたるトレイル、そして広域にわたる里山環境を維持し続けなければなりません。
このトレイルが何十年、そして何百年と長く続いていくためにも、一緒に整備ボランティアに関わってくれる人たちの協力が欠かせないのです。
整備ボランティアの詳細と、実施日のカレンダーは信越トレイル公式WEBサイトに掲載されています。WEBからお申し込み可能です。
ちなみに、整備活動に5回参加すると「オリジナルTシャツ」、さらに10回参加すると「オリジナルキャップ」がもらえます。いずれも非売品なので、ぜひゲット目指してお気軽にご参加くださいね。
では、よい週末を〜!
お問い合わせ | NPO法人信越トレイルクラブ |
公式WEBサイト | https://www.s-trail.net/ |
執筆:くわはら えりこ
撮影:太田 孝則
記事公開日:2024年9月6日